「令和5年度 鑑賞支援サービス 地域スモールモデル構築事業」報告書
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目次
- はじめに
- 3つの劇場の経験や学び、発見などを共有します
- 鑑賞支援サービス 地域スモールモデル構築事業とは?
- 連携した劇場を紹介します
いわき芸術文化交流館アリオス
荘銀タクト鶴岡(鶴岡市文化会館)
希望ホール(酒田市民会館) - こんなプロセスで鑑賞支援サービスを計画・実施しました
フェーズ1 劇場の指針や状況を把握しよう
フェーズ2 障害の特性と基本的な対応について知ろう
フェーズ3 対象事業を決めよう
フェーズ4 対象者を決めて実施計画を立てよう
フェーズ5 情報を届けよう
フェーズ6 本番に向けてスキルを学ぼう
フェーズ7 ついに、本番!
フェーズ8 振り返って、次回につなげよう - おわりに
はじめに
一般社団法人日本障害者舞台芸術協働機構では2019年度より、障害のある人が舞台芸術を鑑賞する際に必要な支援サービスの普及を目的に「鑑賞支援サービス ショーケース& フォーラム」(文化庁委託事業「障害者による文化芸術活動推進事業」※1)に取り組ませていただきました。
※1 2021年度より事業名変更「障害者等による文化芸術活動推進事業」
4年間の取り組みの結果、60以上の公演に鑑賞支援サービスを提供することができました。一定の広がりを見ることができたと同時に課題も見えてきました。それは、鑑賞支援サービスを提供した60以上の公演の多くが都市部を中心とした日本を代表する劇場・文化施設であったことです。
2021年3月、劇場・文化施設における障害のある人の文化芸術活動の取り組み状況の把握を目的に、2,176の国公立施設と224の私立施設を対象にアンケート調査が実施され、報告書「令和2年度 障害者文化芸術活動推進に向けた劇場・音楽堂等取組状況調査」(編集・発行/公益社団法人全国公立文化施設協会)がまとめられました。
調査結果によれば、主に障害のある人を対象とした鑑賞事業を「実施している」と答えた施設の割合はわずか8%で、「実施していない」と答えた施設は92%でした。障害のある人の鑑賞の機会が拡大してきているという見方を示す専門家がいる一方、それらは都市部を中心とした劇場・文化施設による先行モデルである可能性が高いように思われます。
92%の数字を本気で改善していくためには、障害のある人も鑑賞できる環境を地方に広めていくことが必須です。そのためには、都市部のモデルを地方に押しつけるのではなく、地方の異なる状況に応じたスモールモデルを構築していくことが必要です。
地域によって劇場や文化芸術のあり方はさまざまです。都市部と違い、地方劇場では鑑賞支援サービスに取り組む予算や人員を確保できないところもあれば、その技術や情報をもち合わせていないところもあります。劇場によっては、貸し館事業や買取公演が中心であったり、そもそも鑑賞事業をほとんど実施していないケースもあります。
そこで、地方の劇場にマッチした方法を模索しながら、地域と一緒に鑑賞支援サービスに取り組み、実践を通じて地域人材を育成することで地方の劇場にも障害のある人が参加できる環境づくりを広めることをめざす「鑑賞支援サービス 地域スモールモデル構築事業」に取り組ませていただきました。
この報告書は、東北エリアの3つの劇場と連携して実施したプロジェクトの成果をまとめたものです。事業を通じて提供された情報に基づき、各劇場が検討し選択したアプローチから最終的に計画・実施した鑑賞支援サービスに焦点を当てています。これらを共有することで、地方の劇場においても同様の取り組みを促進し、鑑賞支援サービスの導入に向けた契機となることを目指します。
本報告書が、1つでも多くの劇場にとって実践の一歩を踏み出す一助になることを願います。
3つの劇場の経験や学び、発見などを共有します
今回、連携していただいた劇場は、福島県のいわき芸術文化交流館アリオス、山形県の荘銀タクト鶴岡(鶴岡市文化会館)と希望ホール(酒田市民会館)の 3 館でした。
いわきアリオスでは、2021年度に組織内でユニバーサルデザイン検討推進委員会を立ち上げ、年齢や性別、障害の有無、国籍に関係なく、誰もが劇場体験を楽しめるような事業がスタートされていました。しかし、地域の障害福祉団体や障害のある人との連携は薄く、事業成果に結びつけていくための課題を抱えていました。
荘銀タクト鶴岡では、一部のスタッフが積極的に障害のある人を受け入れるための研修に参加し、事業では障害のある人も参加できるダンスワークショップの実施経験がありました。会館設備にヒアリングループや赤外線音声補聴システムが付帯されていましたが、実際にはほとんど活用されておらず、鑑賞支援サービスの具体的な取り組みは未実施でした。
希望ホールでは、2018年3月に「文化芸術基本条例」、2020年4月に「酒田市障がいのある人もない人も共に生きるまちづくり条例」が制定され、職員研修や地域の特別支援学校へのアウトリーチ事業などが進められていました。しかし、障害のある人が劇場で鑑賞するための具体的な支援サービスへの取り組みは、知識や情報、技術、経験の不足から実施に至っておりませんでした。
これらの劇場は、組織の構造や取り組みの現状、抱える課題は異なっていましたが、共通して「このことに取り組まなければならない」という意思をもった人材がいました。3館に「鑑賞支援サービス 地域スモールモデル構築事業」のプログラムに沿って同じ知識や情報を共有しましたが、計画やプロセス、地域との連携、成果はそれぞれ異なるものでした。
この報告書では、3館が検討を重ねながら取り組んだ経験と実践から得られた学びを紹介します。
鑑賞支援サービス 地域スモールモデル構築事業とは?
障害のある人が参加できる環境づくりを広めることを目的に、都市部とは文化芸術や劇場の事情が異なる地方劇場を対象に鑑賞支援サービスの実施方法のレクチャーと人材育成をおこない、地域にあった方法(スモールモデル)の構築をめざす事業です。
事業実施にあたり特記事業
- 劇場でもともと計画されていた事業に、鑑賞支援サービスを付加しました。
- 鑑賞支援サービスとは「情報や場所に到達するまでの接続・移動サービス」「鑑賞時の想像支援サービス」「コミュニケーションサービス」の3つの総称です。
- 鑑賞支援サービス部分(育成支援も含む)のみ、本事業で費用を負担しました。
スケジュール
2023年5月
ヒアリング/劇場の現状を把握
基礎研修/障害や鑑賞支援サービスについての知識共有
ミーティング/鑑賞支援サービスの内容を考える際のポイントを確認
2023年7月〜8月
広報研修/届ける情報や情報の届け方の工夫・・・など
2023年11月〜2024年2月
運営研修/運営スタッフ・レセプショニスト向けに障害のある人が来場された際の対応方法・・・など
技術研修/技術スタッフを対象に今回取り組む鑑賞支援サービスの技術解説・・・など
本番/いわきアリオス(2023年12月と2024年1月の2 回)、希望ホール(2023年12月)、荘銀タクト鶴岡(2024年2月)
連携劇場間の交流/各劇場の取り組みを共有、合同振り返り会
2024年3月
報告書を発行
連携した劇場を紹介します
本年度は東北エリアで展開。次の3館の協力を得て、実施しました。
いわき芸術文化交流館アリオス
施設概要
大ホール(1705席)、中劇場(687席)、小劇場(233席)、音楽小ホール(200席)、リハーサル室(2室)、練習室(6室)、キッズルーム・・・ほか
運営
いわき市
2008年開館。PFI事業として民間の資金やノウハウを活用して施設の設計・建設をおこなったが、施設の運営については市直営スタイルを採用。「おでかけアリオス」(アウトリーチ事業)や「アリオス・こどもプロジェクト」(子どものための遊び場事業)、「まちなか連携プロジェクト」(地域の施設や店舗等と連携し市街地の魅力を創出する事業)など、観る・創る・出かける・知る・集まる・触れるというテーマ別に事業を展開。鑑賞したり、練習したり、食事したり、読書したり、おしゃべりしたりと“屋根のある公園”という開かれた劇場づくりをおこなっている。
※ 以下、アイコン下のお名前は敬称略。
いわきアリオスの担当者 田中理紗さんにうかがいました!
貴館に地域の障害のある人が訪れる頻度はどのくらいありましたか?
主催事業に車いす席スペースをご利用になるお客さまがいますし、社会福祉大会など福祉系のイベントには障害のあるお客さまも来館されています。共催・貸館事業では、どのくらいのご来館があるかは把握できていません。
これまでに鑑賞支援サービスを実施したことはありましたか?
「ユニバーサルデザイン検討推進委員会」(以下、UD委員会)を2021年度に立ち上げ、取り組み始めていたところでした。開館から10年以上が経ち、劇場等の法整備が進む中、ハード面・ソフト面・サービス面のユニバーサルデザインについて見直し、できるところから更新していく目的のプロジェクトです。最初の2年間は全セクションから1人ずつ計10人が、2023年度から各課から1〜2人ずつ計4人が参画するかたちで継続しています。
年齢や性別、障害の有無、国籍に関係なく、みんなで劇場体験を楽しむためにはどうしたらいいだろうと話し合い、2022年度には“観劇のユニバーサルデザイン”としてマイムパフォーマンス公演を企画・開催。マイムパフォーマンスであれば、目で見て鑑賞していただけ、セリフがないので未就学児、聴覚障害者、外国人をはじめ、幅広い方々にも楽しんでもらえるのではないかと考えたんです。
支援サービスとして、コミュニケーションボード(ボードにある内容を指差ししながらコミュニケーションを図るツール)、ポケトーク(リアルタイム翻訳機)、筆談用タブレット、withチケット(1人での来場が難しい障害のあるお客さまで介助者と一緒に来場された場合、介助者のチケット代は1名につき500円)を導入しました。
以降、コミュニケーションボードとポケトーク、筆談用タブレットについては、当館インフォメーションや貸館窓口に設置し、必要な人が来館された際に使用しています。withチケットについては、主催事業ごとに判断して取り入れています。
鑑賞支援サービスに取り組むにあたって、どんな課題がありましたか?
UD委員会を立ち上げた当初、「当館にご来館することが難しい方とは?」「どのような障害があるのだろうか?」「鑑賞支援サービスとは、来館していただいてからのことなのか? それとも、来館前のことから?」など、どこから手をつけていいのかがわからず、とにかく自分たちにできることを手探りで進めてきたので、検討する材料が不足していたんです。
また、広報活動においても、マイムパフォーマンス公演では、市の障がい福祉課に協力をお願いして聴覚障害者団体にチラシを配布したり、特別支援学校や地域で活動する団体に声をかけたり、外国人の方にも鑑賞していただきたいと留学生を多く受け入れている大学を訪問したりしたものの、必要な人に情報を届けるためにはどこにどう広報すればいいのか、どんな協力を依頼すればいいのか、難しさを感じていたところでした。
荘銀タクト鶴岡(鶴岡市文化会館)
施設概要
大ホール(1120席)、小ホール(180席)、練習室(2室)、会議室(2室)、託児室・・・ほか
運営
タクトつるおか共同企業体
2018年開館。当初は市直営だったが、2021年から指定管理者(タクトつるおか共同企業体)が運営。「TACTおとアート」(全館開放コンサート)や「ワンコインコンサート」(地元アーティスト出演、入場料500円)といった気軽にアーティストのコンサートを楽しめる事業のほか、「タクト探検隊 ♪ 舞台のおしごと」といった仕事体験事業、シネマイベントとして商店街や市内の学校とコラボレーションした地域連携事業など、さまざまな角度から文化芸術に触れる機会を創出している。
荘銀タクト鶴岡の担当者 伊藤玲子さんにうかがいました!
貴館に地域の障害のある人が訪れる頻度はどのくらいありましたか?
当館の主催事業(月1〜2 回)に車いす席1〜2組程度のお申込みがある状況です。これまでですと、白杖をお持ちの方、耳の聞こえにくい方が何度かお見えになっています。
これまでに鑑賞支援サービスを実施したことはありましたか?
実施したことがありませんでした。開館して5年目、劇場経験者が2人程度であとは未経験者。外部の有識者にサポートしていただきながらの事業実施と同時並行でスタッフの育成……目の前の業務をこなすことに精一杯で、鑑賞支援サービスの知識やノウハウを習得する余裕がなかったというのが正直なところです。
しかし、開館時からヒアリングループと赤外線補聴システムという聴覚支援装置を所有していました。開館前には、難聴の方々にご協力いただいて、それらの装置を試してみたことがあったそうです。今となっては当時を知るスタッフもいなくて、ノウハウなども引き継がれておらず、本事業でお客さまからうかがって 初めて開館前の取り組みを知りました。これまでは市の福祉課や外部団体への装置貸し出しが主でした。
鑑賞支援サービスではありませんが、市内外の福祉分野でも活動する団体と連携して、障害の有無に関係なく参加していただけるダンスワークショップの事業経験があります。参加者には、車いす利用の方やダウン症の方がいました。
鑑賞支援サービスに取り組むにあたって、どんな課題がありましたか?
まずは、スタッフの知識の習得と、意識や関心の向上です。一過性ではなく、継続した環境づくりのためには「障害のある方にも気持ちよく鑑賞していただきたい」とスタッフ全員が同じ方向を向くことが重要と感じていました。そこで、実務面を担う事業担当6人(うち、1人は貸館業務兼任)を中心に、貸館担当5人と舞台技術スタッフ3人の14人体制で本事業に取り組むことにしました。事業担当メンバーには常にCCで情報共有。そのほかのメンバーについては、関わってもらいたいタイミングで連絡することにしました。
具体的なことで言えば、これまでの主催事業はほぼ満席となることが多かったため、希望者がどのくらいいるのかがわからない状況で、鑑賞支援サービスの専用席を確保することは難しいと考えていたところがあります。鑑賞支援サービス付き公演の需要がどのくらいあるのか、専用席として何席ほど確保すればいいのか、専用席はどのあたりに設定すればいいのか、そのあたりのことを知りたいと思いました。
主催/ toal(l 代表 菊地将晃)、荘銀タクト鶴岡
講師/セレノグラフィカ アシスタント/菊地将晃、石原玉美
希望ホール(酒田市民会館)
施設概要
大ホール(1287席)、小ホール(150席)、練習室(3室)、会議室、託児室・・・ほか
運営
酒田市
2004年開館、市直営。すべての市民が文化芸術に触れ、自由で多様性のある社会実現をめざして、2021年から市内すべての小学校や特別支援学校へのアウトリーチ 、ワークショップ、参加・育成、鑑賞事業に取り組む。2021年度から2023年度は、国内を代表するアーティストが地域に一定期間滞在し、地域との交流を経て、劇場での鑑賞体験につなげる事業に取り組んだほか、荘銀タクト鶴岡との事業・広報、人材交流などの連携事業を展開した。
希望ホールの担当者 東海林聰さんと斉藤巧さんにうかがいました!
貴館に地域の障害のある人が訪れる頻度はどのくらいありましたか?
斉藤巧
音楽事業に来館される車いす利用の方が、年に5〜6人ほどです。
これまでに鑑賞支援サービスを実施したことはありましたか?
斉藤巧
ノウハウや設備など、受け入れ態勢が十分に整っていなかった ため、実施してきませんでした。しかし、担当者として2022年度に市主催の人材育成事業「さかたアートアカデミー 〜公共文 化施設とわたし〜」に参加。その第6回プログラム「公共文化施設とわたし〜体験から学ぶ2」で、鑑賞支援サービスについて学びました。公共文化施設がすべての人々に利用しやすい場所となっているかについて考えるきっかけとなりました。
鑑賞支援サービスに取り組むにあたって、どんな課題がありましたか?
斉藤巧
音楽アウトリーチ事業の中で、障害者に向けた鑑賞支援サービ スを実施する例は全国的にもあまりないとうかがいました。まずは学校側に当該サービスを説明し、ご理解いただくところが最初の課題でした。
山形地域コーディネーター
希望ホール&荘銀タクト鶴岡の鑑賞支援サービスを進めていくにあたり、 プロデューサーの佐藤ヒロキさんにご協力いただきました。
こんなプロセスで鑑賞支援サービスを計画・実施しました
本事業で、3館がどのようなプロセスを経て鑑賞支援サービスを企画・実施したのか。フェーズ1からフェーズ8の8段階に分け て紹介します。主に「考え方と意識のポイント」と「各劇場担当者の考え&取り組み」という2つのポイントに分けて紹介することで、疑似体験できる構成としました。
フェーズ 1 劇場の指針や状況を把握しよう
自分たちの劇場でめざしていることは何だろう?
キックオフミーティングで最初におこなったことは劇場の指針や状況のヒアリングでした。
■考え方と意識のポイント
どうして、鑑賞支援サービスが必要なのか?
「障害者による文化芸術活動の推進に関する法律」により、“文化芸術は、障害の有無にかかわらず、人々に心の豊かさや相互理解をもたらすものである”とされています。文化芸術を享受することは、すべての国民が生まれた時からもっている権利です。しかし、障害のある人の中には字幕や音声ガイドといった鑑賞を支援するサービスがなければ、文化芸術を享受することが困難な人もいます。鑑賞支援サービスは、障害のある人にとってなくてはならないサービスなのです。
フェーズ 2 障害の特性と基本的な対応について知ろう
障害のある人とは? 具体的な合理的配慮とは?
鑑賞支援サービスを計画するにあたり、基本的な障害の概念や考え方を共有しました。 また、どんな鑑賞支援サービスがあるのか、そのいくつかの例を実際に体験しました。
■考え方と意識のポイント
「排除」ではなく、「配慮」を選ぶ
障害のある人を鑑賞者として劇場に迎える基本は、「その人を参加させない=排除」ではなく、「その人がどうしたら参加できるのだろうかを考えて工夫する=配慮」を選ぶことから始まります。そのためには、障害の特性を知ることが大切です。ただし、同じ障害種別であってもその人によって特性や性質、機能はさまざま。障害のある人や障害種別を一括りに決めつけるのではなく、それぞれの個人に対して柔軟に対応することが必要です。
こんな体験ワークをおこないました
フェーズ 3 対象事業を決めよう
どの事業が適切か?
本事業では、鑑賞支援サービスのために新たな事業を企画するのではなく、劇場がもともと計画している事業に鑑賞支援サービスを付加して、障害のある人も参加できるように考えました。
■考え方と意識のポイント
市民にとって劇場の“入口”となっている事業に注目する
障害のある人にとって劇場は訪れにくく、文化芸術を鑑賞することが難しい状況にありました。そのため、障害のある人の中には、劇場や文化芸術を鑑賞する機会に慣れていない人が多いことが想定できます。また、文化芸術に対する体験が少ないことが原因で、演劇や音楽コンサート、ダンスが自分自身にとってどのような効果があるのかがわからないという人もいます。そのような状況では、チケット料金を支払ってまで劇場に行きたいと思わないかもしれません。初めて鑑賞支援サービスを導入する際は、まずは障害のある人を鑑賞者として育成する対象であると捉え、市民にとって劇場への“入口”となる事業から取り組みを始めることをおすすめしています。
各劇場担当者の考え&取り組み
いわきアリオスの担当者・田中理紗さんにうかがいました!
次の2つの事業で取り組むことにしました。
1.共同主催事業「劇団こふく劇場 第17回公演『ロマンス』」(以下、演劇公演)
劇団代表の永山智行さんとは、いわき市のまちの人々の人生をテーマにした作品創作でご一緒するなどの関係性がありました。また、永山さんご自身が障害のある人も作品づくりに参加する「みやざき◎まあるい劇場」プロジェクトに取り組まれていたこともあり、ご相談してみたところ、ご快諾いただけました。
2.UD 委員会企画の主催事業「新作聲明『螺旋曼荼羅海会』」(以下、聲明公演)
2022年度のマイムパフォーマンス公演では、視覚障害のある人に対する鑑賞支援サービスをおこなえなかったことと、年齢層が30代メインと比較的若く、高齢者の鑑賞者が少なかったという課題がありました。それらの課題を解決するため、今回は僧侶が儀式の時に唱える声楽「聲明」の公演を選択しました。日本文化に興味がある外国人の方にも楽しんでいただけるかもしれないという考えもありました。パフォーマンスと映像を組み合わせた主に親子向けの公演も検討しましたが、より幅広い年齢層の方に来場してほしいということもあり、最終的には聲明公演に決定しました。
荘銀タクト鶴岡の担当者・伊藤玲子さんにうかがいました!
本格的なクラシック音楽コンサートでありながら500円というリーズナブルな入場料で鑑賞できる「ワンコインコンサート」で取り組むことにしました。ワンコインコンサートは、2020年度から実施している当館の主催事業です。障害のある人にとって、劇場に出向くこと自体が億劫なのではないかという印象があり、垣根を取り払う意味でも入場料は安いほうが足を運びやすくなるではないかと考えました。この事業を選択したもう1つの理由は、同事業は地域に出向くアウトリーチも実施することから、鑑賞支援サービスについて広く知ってもらう機会になるのではないかと考えたからです。
今回の取り組みをきっかけに、当館の方針として「障害のある方が排除されない環境をつくっていくこと」を打ち立てることができました。
私の兄は重度障害のある人たちの作業所に勤めています。私も学生の頃にはボランティ ア活動をおこないました。また、前職の教職時代には学習障害のある子どもやその親と接する機会もありました。だからこそ、一人でも多くの方が人にやさしい世界の実現について一緒に考え、舞台、劇場、文化芸術をますます好きになっていただけるようにと願ってきました。現実的にはハード面でバリアフリーが不十分などの問題もあり、理想だけではなかなか実現できませんでした。今回、鑑賞支援サービスについてお話をうかがい、改めてみんなで考えるきっかけになり、「できるところからでいいんだ」「やっていこう」という気持ちになれました。
希望ホールの担当者・東海林聰さんと斉藤巧さんにうかがいました!
2021年度から本格的に取り組んでいるアウトリーチ事業に鑑賞支援サービスを導入することにしました。特別支援学校では過去2年、ダンスプログラムを実施していましたが、今年度は初めて音楽プログラムを実施することになりました。音楽は本来、“聴く”ものです。年齢層や障害の種別が異なる幼稚部から高等部までの児童・生徒に、どのように芸術の素晴らしさを伝えるか、という点について考えたいと思いました。
山形地域コーディネーターの佐藤ヒロキさんより
アウトリーチ事業は、さまざまな事情から劇場に行けない・ 行きにくい人たち、日ごろ芸術体験に親しみのない人たちに、芸術を届けることを目的に多くの劇場で取り組まれています。そういう目的の事業だからこそ、鑑賞支援サービスに取り組むことが必要なのではないかと感じました。取り組むことによって、広く地域の人たちに鑑賞支援サービスについて知ってもらえ、そのサービスを必要とする人たちへの理解を深めることにもつながります。
フェーズ 4 対象者を決めて実施計画を立てよう
自分たちの劇場でできることは何だろう?
まずは対象者を決めること。その対象者が来場することを想像して、具体的な鑑賞支援サービスを考えていきます。
■考え方と意識のポイント
できることから始め、少しずつ発展させていく
初めて取り組む場合は、1つの障害種別に焦点を当てるほうが取り組みやすく、知識や経験を深めやすくなります。まずは特定の障害種別を対象に注力し、その人にとって必要な鑑賞支援サービスを提供することから始めましょう。その際、予算・人材・施設の可用性を考慮し、継続的に実施可能な方法を検討します。また、組織内の各セクションと考え方や意識の共有を図り、内部連携を強化していくことはもちろん、障害福祉団体等と課題や目的を共有しながら外部との協働体制を構築していくことも重要になってきます。
各劇場担当者の考え&取り組み
いわきアリオスの担当者・田中理紗さんにうかがいました!
耳が聞こえない・聞こえにくい人の鑑賞支援サービス付き演劇公演と、目が見えない人のための鑑賞支援サービス付き聲明公演を実施することにしました。
鑑賞支援サービスについて、各事業では以下の項目を検討し、実施しました。
1.演劇公演
検討事項「鑑賞支援サービス付き事業であることの周知」
聴覚障害のある人は外見からは障害者であるかどうかがわからないため、他のお客さまが上演中にポータブル字幕機を使っている姿を見かけた時に迷惑行為と誤解される可能性があります。ポータブル字幕機が鑑賞支援サービスであることを広報物以外でも観客に周知する方法がないかを検討しました。
結果
劇団代表の永山智行さんがおこなう前説で、この公演が鑑賞支援サービス付き公演であること、ポータブル字幕機を利用されて観劇する人がいることを話してもらいました。また、アフタートークでは「福祉と演劇のこれから」をテーマに演劇と鑑賞支援サービスについて登壇者でディスカッションをおこないました。
2.聲明公演
検討事項「視覚障害のある人が必要な具体的なサービス」
障害当事者の声を直接聞くことを検討しました。
ポイント
一方的な考え方だけではなく、当事者の声に耳を傾ける重要性を感じていました。
視覚障害当事者の話を聞くために、まずは盲人福祉協会に相談しました。
視覚障害当事者から「受付から会場内まで案内してもらえれば、あとは必要な時に声をかけるので、その時に対応してもらえればいいです」という意見をいただきました。
結果
特別な装置ではなく、他のお客さまと同様に接することが大切であることを学びました。また、具体的な取り組みとして、上演前に演出家の田村博巳さんにご登壇いただき、 パンフレットに記載されている内容についてお話しいただくコーナーを設けました。
検討事項「手で触れる衣装の展示」
他にも楽しめる企画として、宗派や階級によって法衣が違うことを伝えるため、衣装をエントランスに展示して触ってもらうことを検討しました。
ポイント
法衣が異なるのは色です。しかし、視覚障害のある人の中には色の違いがわからない人もいます。そこで、触って質感を確かめてもらえたらという考えに至りました。
結果
当日の混雑状況などで衣装を着せているマネキンが転倒する恐れがあることから、今回は触っていただくことは断念し、展示のみとしました。
荘銀タクト鶴岡の担当者・伊藤玲子さんにうかがいました!
鑑賞支援サービスに取り組もうとなった時、最初に市の福祉課に相談しに行きました。その際、「鑑賞支援サービス付きの公演をしようと考えているのですが、需要があると思いますか? どうしたらいいですか?」という、今から思えば漠然とした相談をしました。しかし、福祉課の担当者からは「文化芸術に興味のある人たちはいますから需要はある」「関係者と情報共有することはできる」「劇場にはさまざまなルールがあると思うので、最初は障害の種別を絞ってされるほうがいいのではないか」といった意見やアドバイスをいただきました。また、当館にはヒアリングループと赤外線補聴システムがありましたが、実際に使用経験がなく、操作方法も詳しくわかっていませんでした。
鑑賞支援サービスとしては、以下の内容を検討し、実施しました。
検討事項「ヒアリングループと赤外線補聴システム」
ヒアリングループや赤外線補聴システムの使用方法を把握できておらず、また、どの席がこれらの装置を利用した時に聞こえがいい席なのかもわかりませんでした。適切な音量については、スタッフで試しても音の強弱はわかりますが、難聴者の聞こえ方は異なるのではないかと思いました。そこで、本公演の前(2023年11月)に、地域の高校吹奏楽部に協力を得て検証公演をおこない、聴覚障害のある人(難聴4人、聴覚と視覚の重複障害1人/計5人)にヒアリングループと赤外線補聴システムを試していただきました。
ポイント
ヒアリングループを利用するにはTコイル対応補聴器が必要です。検証公演を実施したことによって「自分の補聴器が対応しているかどうかがわからない」「自分の補聴器ではまったく聞こえない」など、さまざまな反応があることを知りました。
当日運営における対応シミュレーションのヒントを得ることができました。
検証公演終了後に参加者(聴覚障害のある人を対象)と演奏者による意見交換会、アンケートなどを実施しました。
結果
ヒアリングループと赤外線補聴システムを利用できる座席エリアを絞り込み、優先指定席としました。
装置が講演会や式典などに対応した設計となっており、コンサートには適さないことがわかりました。そこで、音量をコンサート向けに調整しました。
検証公演の様子は地域の新聞に掲載され、館の方針や鑑賞支援サービスについて広く市民に知ってもらうきっかけになりました。掲載後は「検証の機会があると知っていれば協力したかった」「今後、装置を使用する公演があれば情報を教えてほしい」「本公演に行 きます」という反響がありました。
地域の要約筆記団体にご協力いただき、公演前後のコミュニケーションとして手話通訳とノートテイク(要約筆記)をおこないました。
聴覚障害のある人たちと直接つながり、意見をうかがえる関係性ができました。
検討事項「字幕サービス」
アーティストや司会者が話す言葉をリアルタイムで文字情報に変換する字幕サービスの実施を検討しました。
ポイント
表示方法として、舞台上のスクリーン、ポータブル字幕機、メガネ型ディスプレイを検討。
客席が広いことや当初は自由席で考えていたこともあり、舞台上のスクリーンに映し出す方法が有力でした。懸念点として、スクリーンの設置位置によっては出演者を見ながら字幕を読むことが困難になるということがありました。
ポータブル字幕機は当事者や地元の手話通訳関係者も未経験だったことから、「試してみたい」という声が多くあがり、館としても実施してみたいと考えました。
結果
ポータブル字幕機にリアルタイム字幕を表示する方法で実施しました。
地域のノートテイカーから高い関心が寄せられ、公演前に体験会をおこないました。
字幕は公演中のみのため、公演前後は手話通訳者とノートテイカーを市に依頼し、スタッフとのやりとりをサポートしていただくことにしました。
検討事項「自由席か、指定席か」
券種を自由席にするか指定席にするかを検討しました。
ポイント
当初は「気軽さ」という部分を優先して自由席にすることを検討していました。
鑑賞支援サービスを利用できる座席エリアが限定されるので、指定席のほうがよいという考えもありました。
結果
今回は初めて鑑賞支援サービスに取り組むということもあり、また、スタッフも障害のある人たちをお迎えする経験が浅いことから指定席にすることにしました。
検討事項「未就学児の入場制限」
未就学児の入場を受け入れるか、あるいは制限するかについて検討しました。
ポイント
当館が実施してきたワンコインコンサートでは未就学児の入場は不可としていました。
今回はホールで実施すること、公共ホール音楽活性化事業(通称名:おんかつ)の共催事業であることを考慮する必要がありました。 関連事業として、同アーティストによる幼稚園児を対象としたアウトリーチ事業を実施していました。
未就学児の入場を許可した場合、コンサート中に「声を出す」「動き回る」ことが想定され、このことを許容するコンサートになります。ホールで音楽コンサートを鑑賞する経験が少ない聴覚障害のある人にとって、機器の取り扱いや精神的な面において問題はない のかどうか、安心して鑑賞できる環境を整えられるのかといった懸念がありました。
声を出したり動き回ったりする子どもには、お声がけを徹底し、劇場マナーを覚えていただく機会にしてもいいのではないかとの考えもありました。
結果
鑑賞支援サービスの対象となるお客さまに、ホールでのコンサートを楽しんでいただくことを最優先に考えた結果、今回は未就学児の入場は不可としました。ただし、未就学児も鑑賞できるようにライブビューイングや親子鑑賞室を設置するほか、商業施設での宣伝も 兼ねたおでかけミニコンサートを開催しました。
希望ホールの担当者・東海林聰さんと斉藤巧さんにうかがいました!
斉藤巧
アウトリーチ先の特別支援学校では、知的障がい教育部の1小学部・2中学部・3高等部と、4聴覚障がい教育部全体(幼稚部〜中学部)の、計4回に分けてコンサートを開催しました。対象者の中には重複障害のある児童・生徒もいました。
鑑賞支援サービスとして以下の4つを検討し、実施しました。
検討事項「コンサート鑑賞のマナーリーフレット(全児童・生徒対象)
発達や知的に障害のある人の中には、鑑賞に不安がある人もいます。そこで、どのように音楽を鑑賞したらいいのかを簡単にイラスト付きでまとめたマナーリーフレットを作成することを検討しました。
ポイント
マナーリーフレットの内容は、アーティストを交えて検討しました。
基本的には、それぞれが自由にリラックスして音楽を楽しんでもらうことを前提としながら、他の人の鑑賞を妨げないためのお約束をわかりやすく案内しました。
アウトリーチ事業を通じて、「今度は劇場で聴いてみたい」と思った児童・生徒が劇場に訪れた時にも同様のお約束になることに配慮しました。
結果
A4片面・カラーのマナーリーフレットを作成。鑑賞のお約束を4つに絞り込み、イラストを使ってリーフレットにまとめまし た。1週間前に学校にお届けし、事前に先生からマナーリーフレットを使って児童・生徒に説明してもらいました。お約束の1つに「ステキな演奏には拍手をしましょう」とあり、当日は演奏が終わるたびに児童・生徒から大きな拍手がアーティストに送られました。
検討事項「リアルタイム字幕(聴覚障がい教育部の児童・生徒対象)
アーティストや司会者が話す言葉を、リアルタイムで文字情報に変えて、スクリーンやポータブル字幕機に映し出すことを検討しました。
ポイント
リアルタイム字幕を実施する場合、次の方法が考えられます。1地域の要約筆記者に依頼する、2プロの字幕入力者に依頼する(遠隔操作式)、3音声認識技術を用いた自動入力。
1の場合は、現場での入力となるため、児童・生徒がタイピング音に気を取られて音楽 鑑賞に集中できない可能性があることから、今回は候補から外しました。
2か3のどちらかとなり、最終的には音楽の専門用語を正しく表示することを考慮して、2を選びました。
結果
聴覚障がい教育部のコンサートで、大型画面にリアルタイム字幕を表示しました。アウトリーチ先で遠隔音声ガイド字幕を実施するために、劇場の技術職員(機材を含む)も同行しました。また、聴くスピードよりも読むスピードのほうが遅いことや正しく字幕が入力されることを考慮して、アーティスト全員が字幕を意識して普段より少しゆっくり目にお話ししました。
検討事項「手話通訳と音声補聴(聴覚障がい教育部の児童・生徒対象)」
手話と音声補聴を必要とする児童・生徒のために、実施を検討しました。
ポイント
手話通訳が必要という児童・生徒がいた場合には学校の先生に相談・依頼することを検討しました。
特別支援学校にヒアリングループ設備がないため、音声補聴を希望する児童・生徒がいた場合、近隣地域の劇場から仮設型のヒアリングループを借りることを検討しました。
結果
聴覚障がい教育部の児童・生徒の中には補聴器の使用者がいたため、念の為に近隣地域の劇場から仮設型のヒアリングループを借りて用意しました。最終的には手話通訳、音声補聴の希望者がいなかったため、今回のコンサートでは実施しませんでした。
検討事項「想像支援(全児童・生徒対象)」
コンサートの演奏曲や構成について、アーティストと事前に打ち合わせをおこないました。その際、発達・知的障害児の特性や過去の鑑賞支援サービス事例を共有しました。 中には、音楽を聴いて想像する経験が少ない児童・生徒もいます。そこで、想像を支援する工夫について考えました。
ポイント
アーティストと一緒に考え、アーティストが積極的にアイデアを出してくれました。
クラシック音楽の中には動物が関係した曲が複数あることから、それらの動物のイラストパネルを活用することを検討しました。
聴覚障害のある人に音楽を感じてもらう方法として、振動や視覚効果というアイデアが出て、これらを実施する方法を検討しました。
結果
セットリストでは、動物が関係している曲を中心に選曲しました。関係する動物のイラストパネルをキャンバスサイズで用意し、児童・生徒の想像支援として活用しました。最初からイラストパネルで答えを教えるのではなく、3つのイラストパネルを並べ、音楽を聴いて自由に頭の中で動物たちを登場させる方法を選択しました。この方法に至った理由は、イラストパネルはあくまで想像支援が目的であり、誘導ではないからです。そのほか、床面に座る、風船を抱く、ピアノの下や近くで聴く、演奏者の手元が見える場所で聴くなどのコーナーを設けました。ピアノの下や近くで聴く時の演奏曲は、重低音がとても響く曲を選曲しました。
フェーズ 5 情報を届けよう
どんな情報を掲載する? 発信方法は?
これまで通りの情報発信では、鑑賞支援サービスが必要な人たちに情報がなかなか届きません。 届けたい相手にとって必要な情報を適切な方法で届けることが大切です。
■考え方と意識のポイン
障害のある人がどのように情報を得ているのかをリサーチ
障害のある人にとって、鑑賞支援サービスの有無やその内容は、行くか行かないかを決める大きな判断材料です。「劇場に行く」という判断に至るためには、鑑賞支援サービスがあることや具体的なサービス内容の詳細が情報として届かなければなりません。しかし、1つのチラシに公演情報と鑑賞支援サービスの内容の両方を掲載すると情報過多となり、かえってわかりにくいチラシになってしまうことがあります。そこで有効な方法の1つが専用チラシ。また、地域の障害のある人がどのようにして情報を得ているのかをリサーチする、行政の障害福祉課や社会福祉協議会などと協働関係を構築することも有効的です。
各劇場担当者の考え&取り組み
いわきアリオスの担当者・田中理紗さんにうかがいました!
チラシではそれぞれで次のような工夫をしました。
1.演劇公演
劇団側が作成する一般チラシは、スケジュールの都合から鑑賞支援サービスの情報を掲載することが間に合わなかったので、当館が発行する広報誌やウェブサイトに、「耳が聞こえない・聞こえづらいお客さま向け鑑賞支援サービスのご案内」というかたちで紹介しました。また、耳が聞こえない・聞こえづらいお客さま向けの専用チラシを作成しました。
2.聲明公演
対象者だけではなく、広くお客さまに鑑賞支援サービスに取り組んでいる公演であることを知ってもらうために、一般チラシにも鑑賞支援サービスの詳細情報を記載しました。それとは別に、視覚障害のある人に向けて点字チラシも作成しました。点字チラシを作成するのは初めてでしたが、以前、隣接する市立美術館で配布していたことを思い出し、担当者に聞いてみたところ、地域に点訳ボランティアグループがあることを知りました。点訳ボランティアグループとは、社会福祉協議会を通してつながることができました。
点字チラシの原稿作成を通じて、言葉だけで情報を伝える難しさを実感しました。公演の魅力を伝える際には、写真があれば効果的で、写真よりも動画があればより具体的なイメージが伝わります。写真や動画で伝わるイメージをどうやって言葉だけで伝えるのかについては、とても悩みました。そこで、点訳ボランティアグループの方々に「視覚障害のある人に向けて、どういう情報を載せるといいですか?」と相談しながら作成しました。言葉だけで説明する難しさを改めて感じ、引き続き考えていかなければならない課題であると思っています。
市の障がい福祉課に関係各所の連絡先を教えていただき、チラシを配布しました。そのほか、各学校や団体に電話をかけて公演をご案内しました。
一連の広報活動を通して、通常の広報に加えて、地域の団体や学校などに個別にお知らせしていかなくては情報が届きづらいことに気づきました。通常の広報では、障がい福祉課にすら当館の取り組みが届いていないことには驚きました。障害のある人にはもっと届いていない可能性が高いということです。障がい福祉課とは関係性ができたので、取り組みを継続したいと思います。
荘銀タクト鶴岡の担当者・伊藤玲子さんにうかがいました!
一般チラシとは別に、鑑賞支援サービスの情報を単独で掲載した専用チラシを作成しました。スムーズに申し込みしていただけるように、専用チラシ裏面を申込書にしたほか、掲載情報を音声で読み取れる音声コード「Uni-Voice」も掲載しました。申し込み方法は、館窓口、電話、FAX、インターネットと、多岐にわたって用意しました。
市の福祉課を通じて市内の福祉団体や特別支援学校を教えてもらい、各団体の方々にチラシ配布協力を依頼しました。特別支援学校には直接チラシを持参し、説明させてもらいました。
また、当館が過去に取り組んだ事業「障害の有無に関係なく参加いただけるダンスワークショップ」でご一緒いただいたダンサーさんから「タクトの取り組みをもっと広めてほしい」という心強いメッセージもいただき、本事業の相談にも乗っていただきました。
そのほか、さまざまな方々にご協力いただきました。やまぎん県民ホール(山形県総合文化芸術館)からの協力のもと、山形県社会福祉協議会へ周知を依頼し、県内各市町村の社 会福祉協議会へも情報を発信することができました。
フェーズ 6 本番に向けてスキルを学ぼう
運営や技術面では、どんな準備が必要だろう?
運営研修と技術研修をおこないました。
運営研修
障害について、それぞれの特性と対応の基本を紹介しました。その場で、障害特性の疑似体験をしたほか、廊下やトイレなど現場に出てのロールプレイングも実施しました。頭で「こうすればいいんだ」と理解するだけではなく、実際にやってみることで理解できることがたくさんあります。
こんな体験ワークをおこないました
技術研修
今回取り組む鑑賞支援サービスの仕組みや設置・操作方法について、実機を使って技術スタッフに説明しました。そのほかの方法やシステムについても可能な範囲で紹介し、さまざまな技術やサービスがあることを知ってもらう機会としました。
こんな技術を学びました
フェーズ 7 ついに、本番!
やってみたからこそ、わかることとは?
3館が本事業により実施した鑑賞支援サービスの様子を紹介します。
いわきアリオスの場合
鑑賞支援サービス対象/耳が聞こえない・聞こえにくい人など
劇団こふく劇場 第17回公演「ロマンス」
12月2日(土)・3 日(日)の2 日間 ※鑑賞支援サービス付き公演は3日(日)だけ
日時/2023年12月3日(日)14:00
会場/小劇場
料金/全席自由。3,000円(当日3,500円)、U25割 2,000円(25歳以下、前売・当日とも)、 やさい割 2,500 円(家庭での収穫野菜提供者、前売のみ) ※鑑賞支援サービスエリアについては指定席 ※未就学児入学不可
主催/合同会社劇団こふく劇場
共同主催/いわき芸術文化交流館アリオス
鑑賞者数48 人
鑑賞支援サービス利用者7人(うち、聴覚障害者5人、見学者2人)
字幕タブレット5台(うち、聴覚障害者3人が利用)、音声補聴装置4台(うち、聴覚障害者3人が利用)、上演台本の貸出1冊
いわきアリオスの担当者・田中理紗さんにうかがいました!
鑑賞支援サービスをスムーズにご利用いただくために事前案内をFAX
初めて鑑賞支援サービスをご利用いただく方にもスムーズに受付を済ませて観劇いただけるようにすることを目的に、当日の流れをまとめた案内を事前にFAXしました。当日には、スタッフや手話通訳者の待機場所を記載した座席図をお渡しし、安心して観劇いただけるように配慮しました。
上演台本の事前貸出
事前に上演台本の貸し出しサービスを実施しました。紙の場合は劇場のチケットカウン ターでお渡しし、電子データの場合はPDFでメールアドレスに送付するという、2パターンを用意しました。
鑑賞支援サービス受付
鑑賞支援サービスの受付は、一般受付より手前のスペースに設置し、専用チラシを拡大したポスターを掲示しました。受付場所はすべてのお客さまが通る動線上にあり、障害のある人にもわかりやすく、また鑑賞支援サービスの導入事業であることを広くアピールできました。受付には、音声認識アプリを活用した字幕表示を用意しました。
字幕サービス
セリフや音の情報を文字で表示するポータブル字幕機を貸し出しました。字幕は単にセリフを表示するだけではなく、演出や雰囲気を伝える手描き文字やアニメーション効果を取り入れた字幕としました。
ネックループ式音声補聴サービス
役者の話す声や流れる音楽を耳元にダイレクトに届ける音声補聴サービスを実施しました。ネックループ非対応補聴器の場合は耳掛け式イヤホンを貸し出しました。
手話通訳
会場案内や前説、アフタートークに手話通訳者を配置しました。
鑑賞支援サービス対象/目が見えない・見えにくい人など
新作聲明「螺旋曼荼羅海会」
日時/2024 年1月20日(土)15:00
会場/中劇場
料金/指定席。3,000円、ペア券5,000円、U25割(25歳以下)1,000円、小学生500円、未就学児無料
withチケット500円 ※車いすや白杖の利用者に同伴する介助者は500円
主催/いわき芸術文化交流館アリオス
制作協力/特定非営利活動法人魁文舎
鑑賞者数397人
鑑賞支援サービス利用者3人(うち、視覚障害者3人)
いわきアリオスの担当者・田中理紗さんにうかがいました!
会場・座席・休憩時の案内
視覚障害のある3人が一緒に受付にお越しになられたので、客席へご案内しました。座席を選ぶ際、「音が聞こえればどこでもいい」とのことだったので、前方の座席へ案内しました。その際に「休憩時と終演後は席で待っていてください。スタッフが案内します」とお伝えしました。休憩時のトイレへの案内では、女性・男性それぞれに分かれて案内できるようにスタッフを男女2名体制にしました。終演後は、アンケートへのご協力をお願いし、用紙の文字が読み取れるかどうかを確認の上、口頭で聞き取って代筆しました。
前説
前説では、演出家の田村博巳さんが本公演のパンフレットに記載されている概要をもとにお話ししました。視覚障害でパンフレットが読めない場合を想定しての前説でしたが、パンフレットは文字量が多く、仏教用語など難しい部分もあったことから、結果的にどなたにとっても理解を深める前説になりました。
いわきアリオスの担当者・田中理紗さんにうかがいました!
当日までで一番大きな課題となったことは何ですか?
鑑賞支援サービスを必要とするお客さまの集客です。障がい福祉課に相談し、最終的には体験モニターとして数人の方にご協力いただけることになりました。相談した際に1つの意見として言われたのが、チケット代の高さです。市立美術館など障害者手帳提示で無料となる場面も多いため、チケット代がネックになっているのではないかと思いました。
チケット代についてはUD委員会の「withチケット」導入過程の中でも議論しました。
- 障害者手帳提示で割引をするかどうか。手帳の有無に限らず、収入格差などで同じ課題がある人たちもいる。その人たちはどうするのか。
- 劇場で鑑賞した経験がない、慣れていないなど、劇場に行くことにハードルを感じている人がいる。
- そもそも文化芸術にお金や時間を費やすことに抵抗感がある人もいる。
- 一度、無料にしてしまうと、無料にし続けなくてはならなくなるのではないか。
そこで、障害のある本人には通常のチケット代をお支払いいただき、介助者が同行する場合は介助者1人につき500円とする新しいチケット料金制度「withチケット」を導入しました。
障害の有無に関わらず、劇場に来てもらうための第一歩をどうつくるのかは、劇場に勤めている者としての課題であることを改めて思いました。
本番を経て、気づけた課題はありますか?
主に3点あります。
①音声補聴が問題なく利用できているか、事前もしくは途中確認の必要性
演劇公演で、音声補聴サービスに対応していない補聴器を付けられていて、サービスを利用できていなかった方がいたことを終演後に知りました。休憩がない公演だったのでリカバリーもできませんでした。当館では老人性難聴の方に向けての難聴者支援装置を用意しており、事前に専用機を試してもらってから貸し出していたのですが、今回も同様に事前に試してもらう機会を設ければよかったと思いました。休憩時間があれば状況を確認して、音声補聴サービスから字幕サービスに切り替えることをご提案できた可能性がありましたが、今回はそれもかないませんでした。
②移動を考慮した休憩時間の設定
聲明公演は鑑賞者の年齢層が高めだったので、移動に時間がかかることを感じました。休憩15分でトイレの時間は足りるのかどうかが気になり、舞台監督と相談して、会場の様子を確認しながら後半の開始時間を調整していましたが、みなさん、時間内にお戻りになられたので予定通りに進行できました。障害のある人をはじめ、鑑賞者の高齢化や劇場内は段 差の多い環境であることを考慮して、ゆとりのある時間で開場や休憩時間を設定する必要があることを学びました。
③鑑賞支援サービスを担当するスタッフ数
複数の鑑賞支援サービス利用者に対して、受付から座席案内までを1人が担当したところ、手いっぱいになってしまいました。受付1人、説明・案内1人は必須。理想を言えば、説明・案内にも各1人ずついればなおいいと思います。今回は事業担当者がその役割を担ったのですが、今後はフロントスタッフと連携して取り組むことも検討していきたいです。
他劇場がトライする際に参考になると思うことがありましたら、教えてください。
初めて鑑賞支援サービスに取り組む際の演目選定において、1つポイントとして挙げられるのは、内容的にも視覚的にもわかりやすいものであることです。わかりやすければ、公演内容を言葉だけで説明しやすいでしょうし、その分、興味や関心をもってもらいやすくなります。また、字幕を見ながら鑑賞した際に、今どんな場面で誰が話しているのかがわからなくなるということも起きにくいのかなとも思います。
今回、鑑賞支援サービス利用者から「照明が暗かったので、発話者を特定することが難しかった」という感想がありました。役者が後ろを向いてセリフを話すシーンが複数あり、手元でポータブル字幕機を見ながら鑑賞していると、誰がセリフを話しているのかがわからなくなってしまったようです(実際には、字幕に話者情報をアイコンで表示していたのですが)。私自身もリハーサルで字幕機を見ながら鑑賞した時、字幕を追いながら舞台を見ることを繰り返すうちに、「あれ、今、誰が話しているんだっけ?」と迷子になりました。字幕機を見ながら鑑賞することに慣れていないうちは、途中で内容がわからなくなり、楽しめない可能性があります。手話通訳の方からも「最初は内容的にも、視覚的にも、わかりやすいものがいいかもしれませんね」とのご意見をいただきました。
そのほかの課題は、スタッフの意識の問題でしょうか。UD委員会の立ち上げ当初、私は「みんな、こんなことをするから関心をもって!」「みんなで取り組まなきゃ!」みたいに肩肘張っていたと思います。興味がある人とない人、自分事として意識する人としない人がいました。「学びましょう」「取り組みましょう」と言っても、全員が同じ方向を向くものでもありません。私自身、たまたまUD委員会メンバーになったから情報を集めたり研修に行ったりするようになり、今に至ります。
「みんな、一緒に」「頑張らなきゃ!」から「関心をもち、自分事として意識をもつスタッフが核となって取り組み、少しずつ館内に広がっていけばいい」という考え方に変わったのも障害のある人と接するようになってからです。障害の特性の理解は必要だと思いますが、一人のお客さまであることには変わりがありません。それはお子さんでも、ご年配の方でも一緒です。お子さんに対して目線を低くして、言葉遣いを簡単にしてお話しするのと、ご年配の方に対して声を大きくして、ゆっくりとお話しするのと同じです。障害の有無は関係ない、目の前の一人のお客さまにどう対応するのか。そのことは誰に対しても変わるものではありません。何か課題に直面した時に、スタッフ間で一緒に考え合える土壌があれば、それで十分なんじゃないかと今は思っています。
何より、「やらなきゃ!」という義務の押しつけになってしまうと続かない気がします。鑑賞支援サービスをはじめ、年齢や性別、障害の有無、国籍に関係なく、みんなで劇場体験を楽しむための取り組みは当たり前にしていきたいです。どうすれば継続していけるのかを考えることも大切です。当館にはUD委員会がありますので、まずはその中で情報共有したことをそれぞれの課で共有していくということを継続していきます。
荘銀タクト鶴岡の場合
鑑賞支援サービス対象/耳が聞こえない・聞こえにくい人など
ワンコインコンサート Vol.8 モデトロ・サクソフォン・アンサンブル 音楽のじかん
〜音、心、おどる。クラシックへの誘い〜
日時/2024年2月23日(金・祝)14:00
会場/大ホール
料金/全席指定。500 円、小学生無料
※未就学児入場不可、親子鑑賞スペースあり(ライブビューイング)
主催/荘銀タクト鶴岡、鶴岡市教育委員会
共催/一般財団法人地域創造 制作協力/一般社団法人日本クラシック音楽事業協会
鑑賞者数470人
鑑賞支援サービス利用者13人(うち、聴覚障害者11人、同行者2人)、 ポータブル字幕機11台(うち、聴覚障害者11人が利用)、 赤外線補聴システム受信機3台(うち、聴覚障害者3人が利用)
荘銀タクト鶴岡の担当者・伊藤玲子さんにうかがいました!
鑑賞支援サービス受付横で、利用者に向けて機器の使用方法などを説明
受付でポーダブル字幕機をお渡しすると、転倒やそれによる破損で怪我をする恐れがあることから座席に置いておくことにしました。ポータブル字幕機の使用方法については受付横のスペースで利用者に説明し、その場で質疑応答も受けました。
鑑賞者全員に鑑賞支援サービスへの取り組みを知らせるチラシを配布
劇場に本事業が鑑賞支援サービスの提供に取り組んでいること、また、今後も文化芸術に触れる機会をより多くの方々への提供を目指していることを明記したチラシを作成し、配布しました。
手話通訳、ノートテイク
コンサート前後のコミュニケーションを潤滑にするため、受付に手話通訳者1人とノートテイカー2人、客席に手話通訳者1人とノートテイカー3人を配置しました。
音声補聴サービス
ヒアリングループとホール設備の赤外線補聴システムを使用しました。
字幕サービス
アーティストが話す言葉や演奏曲名を、リアルタイムで文字表示するポータブル字幕機を貸し出しました。
ライブビューイング
未就学児も親子で楽しめるように、小ホールをライブビューイング会場にしました。
荘銀タクト鶴岡の担当者・伊藤玲子さんにうかがいました!
当日までで一番大きな課題となったことは何ですか?
当館が鑑賞支援サービスをおこなっていくにあたり、スタッフの障害に対する知識の習得と意識・関心の向上が課題だと思いました。「館として、障害のある人にも気持ちよく鑑賞していただきたい」というスタッフ全員が同じ方向を向くことが重要と感じましたので、事業メンバーには常にCCで情報共有を行いました。
また、障害のある人とのつながりがまったくなかったので福祉関係部署に相談し、鑑賞支援サービス付きの公演の需要がどのくらいあるのかを調べました。しかし、当事者に直 接お話をうかがう機会を設けることが難しかったため、赤外線補聴システムの聞こえ方の検証公演 (2023年11月28日、鶴岡工業高等学校吹奏楽部によるミニコンサート)を行いました。その結果、どのようなサポートを求めているのかを直接当事者からうかがうことができました。
検証公演では、本公演に関する情報提供や館の取り組みをお知らせすることができ、当事者とのつながりをもつことができたことは非常に大きな収穫となりました。この検証公演をきっかけに、本公演の情報を福祉関係団体だけではなく、当事者に届ける方法を見出すことができたように思います。
本番を経て、気づけた課題はありますか?
今回、導入したポータブル字幕機は需要が高く、参加したすべての当事者に利用いただきました。当事者の感想から、普段得られない情報保障が確保できたことに深く感激されたようです。たとえば「素敵なことを聞き逃さないで済んだ」など、演奏者が話す内容がすべて字幕で表示されることで、演奏者の人となりが伝わってきて、そこから音の情景を想像できたとお話になられていたことが印象に残っています。
聞こえづらい人にとっては、いつもなら聞き逃しがあるところ、字幕でも情報を得られるということで、安心感につながっていたようです。今後もさまざまな公演で利用したいという要望を多くいただきました。このことから字幕での情報提供は、赤外線補聴システムやヒアリングループという耳から受け取る情報を、より確実に届けることができるサポートの1つとして挙げられると感じます。
そのほかにも、普段は手話での会話に慣れている方も多くいらっしゃることがわかるなど、 お一人おひとりからさまざまな声をうかがうことができました。その要望が個人的なものなのか、普遍的なものなのか、どこまで反映できるのか……今後もスタッフ間で相談し合いながら考えていきたいです。もちろん、スタッフ間でもいろいろな考え方があります。ただ、何か1つの「どうしたらいいだろう?」という課題が出てくるたびに、スタッフそれぞれの考えをアウトプットする機会にもなり、それ自体も学びになっていると感じています。今回の当事者の声をどのように反映させ、継続的に鑑賞支援サービス付き公演を実施していくかが、引き続きの課題となりました。
また、館スタッフ、市民サポーター(自主事業の公演時にレセプション業務をする市民)の事前運営研修では専門の講師から直接指導していただき、障害のある人の特性と基本的な対応方法を実践的に学ぶ機会を設けていただいたので、障害のある人をお迎えする心構えができたように思います。今回は初めての鑑賞支援サービス付き公演ということで館スタッフが先頭となって対応したため、市民サポーターの現場経験の機会の創出とまではいきませんでした。今後も鑑賞支援サービス付きの公演を実施し、運営スタッフ全員で現場対応ができるように経験を積んでいく必要があると感じています。
他劇場がトライする際に参考になると思うことがありましたら、教えてください。
事業を組み立てる段階で、障害のある人もない人も安心して来場できるかたちを共に考え、館全体で創っていく過程が重要と感じます。共催公演での鑑賞支援サービスの実施は、関係者への確認作業が多くなり、調整に時間を要することがありました。初めて取り組 む場合は、自主公演で実施するほうが取り組みやすいのではないかと思います。
また、対象とする障害を絞ることで、より確実に当事者が必要とするサポートを届けられる環境を整えていけることを感じましたし、実践したことのないサービスの提供は当事者にとっても、運営する側にとっても、実験的な要素を多く含むこともわかりました。
希望ホールの場合
山形県立酒田特別支援学校へのアウトリーチ事業
椿三重奏団によるコンサート
日時/2023年12月14日(木)①9:45 ②10:30 ③11:25 ④13:20の計4回、各30分間
会場/酒田特別支援学校 プレイルーム
対象/酒田特別支援学校 全児童・生徒97人
希望ホールの担当者・東海林聰さんと斉藤巧さんにうかがいました!
コンサート鑑賞のマナーリーフレット
斉藤巧
全児童・生徒にコンサート鑑賞時のマナーを紹介するリーフレットを事前に配布しました。当日は、会場入口にも張り出しました。
想像を支援する動物イラストパネル
斉藤巧
演奏曲の中に、ディニク『ひばり』、サン=サーンス『白鳥』、ショパン『子犬のワルツ』といった動物が登場する曲がありました。児童・生徒たちの前に動物イラストパネルを設置し、「曲に動物が登場します。どんな動物が登場するのか、想像しながら聴いてみてくださいね」「どの動物の、どんなイメージが広がりましたか?」と想像の手助けとして使用しました。また、ヴァイオリンの楽器説明でも、動物のイラストパネルを活用しました。
リアルタイム字幕
斉藤巧
聴覚障がい教育部の回には、リアルタイム字幕を実施しました。遠隔地にいるプロの字幕入力者に音声と映像を届け、アーティストが話す言葉をリアルタイムで文字情報に変換してモニターに映し出しました。アーティストたちに、早口だと字幕が正確に表示されない可能性があることをお伝えすると、ゆっくりと話すことを即断してくれました。それは、自分たちの声を参加したすべての児童・生徒に届けるためです。本番前には、ゆっくりとお話しする練習までしてくれました。
振動と共に楽しむ、特別な鑑賞体験
斉藤巧
演奏する手と鍵盤の動きを実際にピアノの近くに集まって見てもらいました。また、ピアノの振動がより伝わるように風船を抱えてもらい、さらにピアノの下にもぐるなど、振動と共に音楽鑑賞を体験しました。音楽を楽しんだ児童・生徒が、終演後にもう一度ピアノを見に行ったり、そばにあったリングベル(鈴)を鳴らしたりしていた姿が印象的でした。
アウトリーチ事業で鑑賞支援サービスに取り組んでみて、いかがでしたか?
斉藤巧
今回、聴覚障がい教育部の回では、リアルタイム字幕をおこないました。学校に聞いたところによると、これまでは当日話す内容を固めておき、その内容をそのままスクリーンに投影して字幕としていたそうです。しかし、臨場感を伝えるという意味でも、アーティストのパフォーマンス的にも、あらかじめ表示の内容を決めておくより、リアルタイム字幕のほうが適していたように思いました。話の内容を視覚的に伝えることができる字幕や、優しいイラストとわかりやすい内容のマナーリーフレットは、共に児童・生徒の鑑賞の助けになっていたと思います。より幅広い年齢層に向けて実施する公演事業などでも取り入れられる方法はないかと、今後も考えていきたいです。
フェーズ 8 振り返って、次回につなげよう
次に活かせる、気づきや学びとは?
約1年の取り組みを振り返って、取り組んでみてどうだったのか、どんな気づきや学び、発見があったのか、今後の展望などについて、3館の担当者にご執筆いただきました。
田中理紗/いわき芸術文化交流館アリオス
鑑賞支援サービスの取り組みを通じて
勉強会に参加することによって、障害の特性を知ることができ、またその特性も個人ごとに違うということを知ることができた。また、運営研修にフロントスタッフ(劇場案内・もぎりスタッフ)が参加したことにより、実際の公演において、自信をもってお客様対応ができたと感想があがった。この2点は今回の取り組みの大きな収穫の一つではないかと思う。
また、実際に鑑賞支援サービスを取り入れるにあたり、何のサービスを取り入れるかではなく、まずはどんな方に来ていただきたくて、その方々が鑑賞を楽しむためにはどのようなサービスが必要なのかという、考え方の転換を知ることができ良かった。そのうえで、どのようなチラシが有効なのかを具体例をもとにレクチャーしていただけたので、専用チラシ作成のうえで大変参考になった。
はじめて機器を用いて鑑賞支援サービスを行ったが、当日の説明や案内、機器のフォローも含めて人手がいるということが分かった。また、事前にスタッフだけでなく、サービス利用者も機器を触ることができると、不具合やその方に合う合わないが分かって、当日スムーズにご案内することができるかもしれないと思った。私個人の感想になるが、理想としては鑑賞支援サービス利用者1組に対し、1名スタッフが専任でつくことができれば、サービスのフォローだけでなく、会場内での他のフォロー(座席やトイレ案内)も同時に行え、サー ビスを受ける障害当事者の方も専任スタッフがいることで、安心して鑑賞できるのではないかと考える。ただし、サービス利用者が増えるとその分スタッフが必要になるので、マンパワーの課題はクリアしないといけない。
実際に来場された障害当事者の方からは、公演に満足したとの声をいただけているので、まずはアリオスに興味を持ってもらい、来たいと思ってもらう、一歩を踏み出していただくことが必要だと感じた。そのためには、分かりやすい広報物を作成し、端的に公演の内容をお知らせしていかないといけないと思う。また、今回公演情報と鑑賞支援サービスの情報を市内の各関係団体に広報していったが、継続して情報をお届けし、関係づくりをしていく必要があることを痛感した。また、各団体に所属していない世代にどうやって情報を届けていくかは、障害当事者の方に限らず今後も課題としていかないといけないと感じた。
最後に、障害当事者の方の鑑賞機会をつくるために、また、障害当事者の方が継続して来館していただくためには、鑑賞支援サービスを含めて大々的ではなくても継続して取り組み続けなければならないと感じた。
田中理紗
福島県いわき市生まれ。2012年(平成24年)4月よりいわき芸術文化交流館アリオス経営総務課広報グループに勤務。組織再編により、2023年(令和5年)4月より、同館 企画協働課地域連携グループに所属。
伊藤玲子/荘銀タクト鶴岡(鶴岡市文化会館)
「鑑賞支援サービス」の取り組みについて
昨年春、私たちにこの事業が本当にできるのかという不安な気持ちに襲われたのを覚えています。そこから間もなく鑑賞支援サービス 地域スモールモデル構築事業についてお話を伺い、ここ鶴岡市にとって、この地域にとって、そして館として「誰もが文化芸術に触れる機会を創出する場を目指す」ためにやっていくべき事業であるという意思表示として「まずやってみよう」という意向を固めました。
今回は、気軽に足を運ぶことが難しい方へも500円で本格的なクラシック音楽を届けたいという意図で始まった自主事業のワンコインコンサートでもあったこと、アウトリーチでこちらから出向いて音楽を届けることができたこと。これらは集客に寄与する動きとなり多くの方にご来場いただきました。当館での初めての取り組みを多くの方と空間を共有することで、知っていただくチャンスをいただき、ありがたかったです。
来場者約470名は鶴岡市の人口の0.4%にあたります。鑑賞支援サービスへの申込者は11名で、これは鶴岡市の難聴者数のおよそ2%にあたります。このような集客結果を得られたのは公演の前段階で赤外線補聴システムの検証公演を行ったことも大きく影響したように思います。ここから当事者の方、手話通訳関係者の方とのやり取りが始まり、公演情報の周知など、たくさんのご協力をいただきました。この繋がりを大切に保っていきたいと思っています。
今回、一般財団法人地域創造の公共ホール音楽活性化事業(通称名:おんかつ)との共催で実施しました。初めての「おんかつ」となり、スタッフの経験不足から試行錯誤しながらの制作となりました。地域連携など公演外の調整も必要でしたし、内部会議に捻出した時間も然り、関係者も多く情報共有に至るまでも時間を要したように思います。しかし、その時間は「誰に何のためにやるのか」という本事業の軸となる部分に回帰する機会にもなり、関わる人たちがそれぞれに抱く考え方を知る大切な時間となりました。様々な気づきをいただいたことで、公演そのものを創る制作スキルの課題も浮き彫りとなったように思います。
そして、当事者と直接やり取りできたからこそ吸い上げられる要望。その期待に応えられるのか、その葛藤は今回の経験がなければ感じられなかった問題であり、そこに向き合うことができたことはスタッフの大きな経験と学びに繋がりました。また、解決のヒントは正しい知識から得られるものということも分かりました。専門家による研修や講義は本当に必須であると感じましたし、大変貴重な時間をいただきました。
公演を終えて、サービスの1つとして提供したタブレットに字幕で表示される内容は、本来は健常者であれば当然のように得られる情報です。あって当然の情報を獲得することも困難な人がいるということを痛感しました。改めて、ここで、誰もが文化芸術に触れられる場所を創っていく、という願いにも似た想いを根底に添えながら、今後もこの取り組みと向き合っていきたいと思いました。
人々が安心して来館できる場所とは何かを模索し続ける日々は続きそうですが、スタッフみんなで考え悩んで進んでいきたいと思っています。
伊藤玲子
荘銀タクト鶴岡事業企画係長。愛知県の芸術大学卒業後、名古屋市の映画館で3年ほど映写機を回す。2003年、地元山形にUターン。県内の中学校、高校で美術の教員として12年勤務。2019年、荘銀タクト鶴岡開館年度に入職、現在に至る。主な担当業務は、会館広報紙「タクトしんぶん」の制作、アーティストによる作品を販売する「タクトガチャ」、地元アーティスト応援プロジェクトによる「TACTおとアート」。
佐藤ヒロキ/山形地域コーディネーター
鑑賞支援サービス 地域スモールモデル構築事業を通じて
もし自分が明日、何らかの事情で障害者になったとして、それでも劇場に足を運ぶ姿が想像できるかと問えば、それは想像することができる。なぜならば、自分にとって芸術体験は人生に欠かせないものであって、障害者になったとしても、だからこそ生きていく上で必要だと感じるからだ。しかし、具体的にどんな障害で、どんな社会的障害があって、どういうことが起き、その時に自分が何を感じ、何を求めるか、その想像ができるとは言えない。その感覚はそのまま、日々の劇場業務での自らの意識に表れていると感じた。障害者が鑑賞に訪れることは「想像」できる。だが「想定」し実行することができない。想像ができても、予算、人材、人員、ノウハウ、ハード環境等々、様々な理由(それは言い訳かもしれない)を逆に想定し、実行することができない。その積み重ねが、想像することからも離れて行ってしまっているのではないかと、振り返る。
それぞれの劇場に様々な事情があるとは言え、その結果が如実に表れているのが、令和2年度の文化庁による、「障害者文化芸術活動推進に向けた劇場・音楽堂等取組状況調査」 だ。この調査において、実施していると回答した劇場は全体で13.5%(うち直営では7.9%、指定管理では17.2%)、実施していないと回答したのは全体で86.5%(うち直営では92.1%、指定管理では82.8%)という結果となった。つまり、もし明日、自分が障害者になったとして、それでも今までと変わりなく芸術にふれようと想像しても、気軽に鑑賞に訪れることができない状況がそこにはあるということであって、全国の劇場の多くがそれを想定できていないということだ。
今年度、一般社団法人日本障害者舞台芸術協働機構の力添えがあり、酒田市、鶴岡市、いわき市で障害者を対象とした鑑賞支援サービス事業が実現。特別支援学校へのアウトリーチ、劇場での音楽公演、同じく演劇公演で、それぞれ鑑賞支援サービスを導入した。今回の取り組みを通じて共通して感じたことは、やはり「想像と想定」だ。対象となる人数は適数なのか、鑑賞者にはどのような障害がある方がいるのか、合理的配慮の観点が抜けていないか、そもそもアウトリーチや公演は何を届けているのか、障害者もそうでない人も観客は何を求めているのか。そういった想像が働いていたかどうかはとても重要で、想像がなければ想定につながることはなく、事業の質や得られる成果に影響する。
例えば、いわきアリオスでは、動線の一番目立つ場所に鑑賞支援サービスの案内と受付を 設けていた。これは障害者が安心して劇場に訪れ易くすることにつながるのはもちろん、 障害のない観客にもその取り組みを周知することとなり、地域への意識付けや障害者への理解を深めることにつながると感じた。来場する全ての人を想像、想定し、合理的配慮がなされていた結果だ。酒田市では、アウトリーチに技術スタッフが帯同し鑑賞環境を整えた。鑑賞者によりよい芸術体験を届ける上で重要であることと同時に、地方の劇場の舞台技術者への意識を醸成することにもつながる。また、鑑賞者にマナーリーフレットを事前配布した。これは鑑賞のルールを押し付けるものではなく、障害者が劇場に訪れ易くするためのきっかけ(少し恰好つけた表現をすれば “勇気”)を与えることにつながる。荘銀タクト鶴岡では、公演時間や料金設定、公演プログラム、受付方法、広報の方法などについて、何度も何度も打ち合わせを重ね考えた。地域住民や専門職、学校などの協力を得ながら事業を組み立てるプロセスは、経験不足を補うために必要な、想像と想定の積み重ねだった。
今回の取り組みにおける想像と想定のプロセスは、障害者への鑑賞支援サービスの取り組 みに限らないということだ。事業担当者が事業を企画する際に、例えば「クラシック音楽が好きな人」「演劇が好きな人」「若い人」「日頃芸術にふれる機会の少ない人」、そして「身体に障害がある人」など、実はとても漠然とした対象に向けて事業を組み立てていることが多い。もちろんそれは間違いではないが、単位は「1」であって、具体的にどういう対象なのか、細分化がされていない。細分化がされていないということは、対象の本質を捉えられておらず、どの対象にどういう事業をどうアプローチするのかが見えていないのだから、集客はもちろん成果につながらない(正しくは成果が見えてこない)。この時点で、その事業の本来の目的は若干、破綻している。その結果、求める成果が「完売」「集客」のみに向いてしまう。「完売」や「集客」が目的であればそれに沿った事業を企画すればいい。目的とゴールの軸がブレていたら正しい成果は得られない。軸がブレているのだから正しい事業検証もできず、劇場に関わる地域や人材の育成が増々遅れていく。
クラシック音楽が好きな人にも若い人にも障害者にも、多様な個性があってグラデーショ ンがある。そこを想像できるかどうかは、事業の質に表れ、合理的配慮の形成にもつながるものだと感じる。障害者を対象にした事業だから特別なのではなく、鑑賞者の多様な個性を想像し想定する力はつまりマーケティング力であり、そのまま劇場の事業企画力となるものだ。そのことを感じさせた、今回の取り組みだった。
佐藤ヒロキ
長野県出身。creative office Kick-A 代表、プロデューサー。音楽学校でオーケストレーションと音響を学ぶ。大手レコードチェーン店でのショップバイヤー、外資系レコード会社勤務を経て、2014年から長野県上田市のサントミューゼ(上田市交流文化芸術センター・上田市立美術館)で事業・広報・宣伝・マーケティングを担当し、劇場の活動を通じて市全体のプロモーション活動にも従事。現在は、公共ホールのプロデュースや自治体のアドバイザーなどを務める。
おわりに
2023年12月3 日(日)、いわきアリオスとの連携事業「劇団こふく劇場『ロマンス』」演劇公演が開催されました。この事業は、宮崎に拠点を置く劇団こふく劇場との共同主催事業で、いわき公演はツアー公演の一環としておこなわれました。作品は2023年9月から2024年2月までの間、全国9カ所で上演され、すべての会場で終演後にトークがおこなわれました。特に、いわきでの公演では鑑賞支援サービスが提供されたこともあり、トークでその取り組みが話題にあがりました。トークのおわりは、この事業の担当者である萩原宏紀さんが、「今回の取り組みは小さな一歩でしたが、いわきアリオスにとっては大きな一歩を踏み出すことができました」というメッセージで締めくくりました。この言葉は私にとても強く響きました。まさに、今回のプロジェクト「鑑賞支援サービス 地域スモールモデル構築事業」が掲げている目標に一歩近づけたと感じました。
トーク終了後、客席に残っていた聴覚障害者に「また、劇場に来てくださいね」と声をかけると、「必ず、また来ます」と返答してくれました。
3つの劇場と連携して取り組んだプロジェクトでしたが、その取り組みやプロセス、得られた成果や課題はそれぞれ異なるものでした。しかし、共通していたのは、このプロジェクトを通じて地域の障害者と劇場職員の会話がはじまったこと、そしてこの取り組みを継続していかなければならないと思う実践経験者を残せたことです。このことが、この先、地域ならではの鑑賞支援サービスや障害のある人たちも参加できる事業を発展させていくことにつながるのだと信じています。
最後に、この取り組みを通じて劇場職員や地域の人たちが文化芸術や劇場の役割について再考する機会になれば幸いです。
一般社団法人日本障害者舞台芸術協働機構
代表理事 南部充央
南部充央
2001年より国際障害者交流センターの事業にかかわる。以降、障害者も参加できる舞台芸術の企画制作、運営、アドバイザー、研修、調査などに携わる。2025年日本国際博覧会ユニバーサルサービス検討会委員、愛知国際アリーナ ユニバーサルサービスデザイン・アドバイザー、「24時間テレビ」大阪読売テレビイベント会場におけるアクセシブルデザイン・アドバイザー。株式会社リアライズ取締役。公益社団法人全国公立文化施設協会コーディネーター。著書に『障害者の舞台芸術鑑賞サービス入門 -人と社会をデザインでつなぐ-』(2019年/NTT出版)がある。
地方劇場の“障害のある人も鑑賞できる環境”モデルをつくる
令和5年度 鑑賞支援サービス 地域スモールモデル構築事業 報告書
発行年月/2024年3月
発行/一般社団法人日本障害者舞台芸術協働機構(JDPA)
企画・編集・執筆/南部充央
記録・執筆/小森利絵(えんを描く)
デザイン/いけながしろう(かえるぐみ)
表紙写真協力/いわき芸術文化交流館アリオス
文化庁委託事業「令和 5 年度障害者等による文化芸術活動推進事業」
主催/文化庁、一般社団法人日本障害者舞台芸術協働機構(JDPA)