Topics

特集一覧

  1. HOME
  2. ブログ
  3. ブログ
  4. チケット価格の対等な価値について
チケット価格の対等な価値について

チケット価格の対等な価値について

字幕が付いた劇場公演は、多くの人々にとってアクセス可能なエンターテイメントの一環となっています。しかしながら、せっかく字幕付き対象公演があっても、字幕を必要とする人の参加が意外にも少ないことがあります。あるとき、字幕付き演劇公演の情報発信に努めていた担当者が集客0の結果に対して「チケット料金が高い」という理由を述べました。担当者が字幕を必要とする当事者にアプローチするなかで、この意見を聴くことができたのだと思いますが、では、なぜ当事者はチケット料金が高いと感じたのでしょうか。実際には、どのような背景が考えられるのでしょうか。

2023年6月、多くの映画館で鑑賞チケット料金が2,000円に値上がりました。高くなったなあと思いますが、オーケストラ・コンサートやミュージカル、演劇、歌舞伎、バレエなどの芸術鑑賞チケットの料金に比べると、まだリーズナブルな方だと言えるのかもしれません。「チケット料金が高い」という指摘には、映画と舞台公演の価格差が影響している可能性も考えられます。

ほとんどの映画館には障害者割引サービスがあります。障害者手帳を提示すると割引価格で映画を鑑賞することができます。しかし、劇場公演で障害者割引を適用しているところは少ないように思います。字幕対象公演があっても、チケット料金は一般料金と同じ値段というところがほとんどです。

どうして劇場公演には障害者割引がないのかを調査することも必要だと思います。どこかの調査機関が実施してくれるといいのですが、、、

さて、今回は「劇場公演のチケット料金は、字幕サービスが付くことによって私たちと対等な価値になるのだろうか」ということを考えてみたいと思います。

一つの観点として、字幕が映画と劇場公演で異なる形態で提供されていることも考慮すべきかもしれません。映画では、字幕は画面下や右に表示され、視点の移動や焦点の調整がほとんど必要ありません。しかし、劇場公演では舞台両端に字幕表示用のモニターを設置したり、ポータブル端末を利用して字幕を見ることになります。そのため、視点や焦点の移動・調整が必要になります。複数の役者が登場する舞台上では、セリフの話者を特定することも難しい場合があります。これによって作品の理解度が低下し、感動が半減してしまうことも考えられます。

劇場公演の場合、字幕を利用できる座席位置が限定されていることも多いです。このことは過去のブログ「ポータブル字幕の座席位置について考える」でも触れたので、ここでは詳しく書きませんが、結論から言うと字幕が利用できる座席エリアは、ほとんどの場合、客席最後列の左右どちらかに寄った場所に限定されます。一般的な観客が自分の好みで座席を選べる一方、字幕利用者は同じチケット料金であるにも関わらず、選択の余地が限られているのです。

また、舞台公演の制作過程においても、字幕の適切な組み込みが課題となっています。私の経験上、劇場公演の字幕を脚本家や演出家がチェックすることは少なく、字幕が作品全体に統合されないことがあります。そのため、字幕を必要とする人々が作品の雰囲気や音楽を充分に楽しむことが難しくなることがあります。

こうした事情を踏まえると、「字幕が付く=対等な価値」とは必ずしも言えないかもしれません。他にも、情報発信やチケット購入方法、受付時のコミュニケーションサービスなどを総合的に評価すると、対等な価値とは言い難い状況が増えていくかもしれません。

でも、だからといって私はチケット代をディスカウントしてほしいと言っているのではありません。これまでのフォーマットを見直し、対等なエンターテイメント体験を提供するためのアプローチが必要ではないでしょうか、ということが言いたいのです。その上で、適正な価格設定や割引制度を検討し、対等な価値を実現するための努力が重要だと思います。

字幕対象劇場公演がより多くの人々にとって魅力的なものとなるためには、今一度価値の再評価と、包括的な改善策の模索を進める必要があるでしょう。

関連記事