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鑑賞者ビラミッド(河島伸子教授作)

鑑賞者開発の視点から見る障害者参加の課題

障害のある人も参加できる事業成果のひとつに参加人数が挙げられます。鑑賞支援サービスを用意したのだから、当然ながらそのサービスを必要とする来場者に訪れていただきたい。しかし、結果的にそのサービスを必要としている当事者の参加が「0」だったということもあります。さらには、この結果を受け「やる意味がない」と感じてしまうケースも存在します。このような結果に至る原因には、広報・宣伝方法が不適切だったという可能性も考えられます。障害のある人に情報を届けるためには、既存の広報手段では情報が届かないこともあり、より効果的な「情報の届け方」と「届く情報の工夫」が必要になります。しかしながら、実際には、情報が届いているにもかかわらず来ないというケースも存在します。果たして、障害者は文化芸術を拒絶しているのでしょうか。ここに潜んでいる課題や問題は何なのでしょうか。

2013年に「劇場・音楽堂等の事業の活性化のための取組に関する指針」が発表されました。その中には「鑑賞する者の育成を図る」という文言が含まれています。この指針は、潜在的な鑑賞者を発掘し、新たな鑑賞者を育てることを目指しています。この概念を日本にもたらしたのは、同志社大学経済学部の河島伸子教授でした。河島伸子教授は、現在は観客となっていないが、潜在的に鑑賞者となる可能性を秘めている人々を発掘し、育てていくという概念を「鑑賞者開発」と定義しました。

鑑賞者ビラミッド(河島伸子教授作)

英国では、1990年代後半に鑑賞者開発(及びアーツ・マーケティング)の考え方が普及・発展していきました。その経緯については、全国公立文化施設協会のアドバイザーである柴田英杞氏が「アートマネジメントハンドブック2」(2013年、公文協)で述べているので、以下に引用してご紹介します。

  1. 1980年代から1990年代前半、劇場を含む芸術団体への公的支援のカットや民営化の流れが起こり、アーティストや芸術団体の発想の転換が求められた。
  2. 国や地方財政が悪化し、業務管理や事業収入の確保による財政基盤の安定化が求められた。
  3. 多くの鑑賞者に鑑賞する機会を提供することの芸術的な意味が問われた。
  4. 公的資金を活用する場合は、鑑賞者が親類縁者・関係者だけでは公益性が担保されず、多くの鑑賞者に来場いただく必要性がでてきた。
  5. 芸術性・経済性・社会性を満たす三つの評価要素が求められるようになってきた。

2013年以降、日本でも「鑑賞する者の育成を図る」という考えに関心が高まりました。しかし、その時点で障害のある人たちが潜在的な鑑賞者として認識されていたかどうかは疑問です。当時、障害者差別解消法もまだ施行されておらず、すべての劇場が障害者を鑑賞者として捉えていたとは言い難いかもしれません。これまで鑑賞者として劇場を訪れる機会が(ほとんど)なく、また、潜在的な鑑賞者として育成される対象にもなってこなかった障害のある人たちが、法制度が整備され、字幕や音声ガイドの提供が進んだからと言って急にチケットを購入して鑑賞に訪れる可能性はとても低いと言えます。

まずは、障害のある人たちも潜在的な鑑賞者として捉え、頻繁に鑑賞に訪れていただけるように育成していくことが重要です。そのためには、以下のような工程が必要となってくると考えられます。

1. 認識と意識の改善 : 障害のある人たちを鑑賞者として捉えるためには、まず劇場職員全員の認識と意識の改善が必要です。障害者への偏見や差別を取り除き、彼らの鑑賞の権利と可能性を尊重する姿勢を持つことが重要です。

2. 施設のアクセシビリティ向上 : 劇場や文化施設においては、障害のある人たちがスムーズに訪れ、鑑賞を楽しめる環境を整備する必要があります。バリアフリーな設計や設備の導入、適切な案内や支援サービスの提供などが含まれます。

3. プログラムの多様化 : 障害のある人たちの多様なニーズや興味に応えるため、多様な鑑賞プログラムを提供することが重要です。音声ガイドや字幕だけでなく、手話通訳や車いす席の確保、感覚的な体験を重視したプログラムなど、障害の種類や個別のニーズに対応した取り組みが求められます。

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