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舞台技術とアクセシビリティ

舞台技術とアクセシビリティ:想像支援という共通目的

2022年に「障害者情報アクセシビリティ・コミュニケーション施策推進法」が施行されました。この法律の基本理念には、障害者による情報の取得利用・意思疎通に係る施策の推進にあたり、下記の事項が記されています。

  • 障害の種別・程度に応じた手段を選択できるようにする
  • 日常生活・社会生活の営んでいる地域にかかわらず等しく情報取得ができるようにする
  • 障害者でない者と同一内容の情報を同一時点において取得できるようにする
  • 高度情報通信ネットワークの利用・情報通信技術の活用を通じて行う(デジタル社会)

舞台芸術においても、障害者でない者と同一内容の情報を同一時点で届けていかなければなりません。鑑賞時の情報サービスとしては、手話通訳や字幕、音声ガイドがこれにあたると思いますが、ぼくとしては、舞台芸術における手話通訳や字幕、音声ガイドにおいては「情報」に留まるのではなく、鑑賞者の想像を支援する、作品に寄り添った「サービス」であってほしいと願います。インフラとしての発展と同時に、舞台技術としても発展していってほしいのです。

少し前になりますが、2020年にKAAT神奈川芸術劇場の舞台技術講座に参加させていただき、事業部長/技術監督である堀内真人さんと対談させていただく機会を得ました。そのとき、私は堀内さんに「舞台技術の目的は何なのか?」と質問しました。この質問に堀内さんは、次のように答えてくれました。

舞台技術とは、実現する力・手段である。何を実現するのかというと、1つは、作り手(=アーティスト、あるいは製作者)が、創り出したいこと、伝えたいこと。もう1つは、受け手(=観客になり得る人)が、受け取ること、受け取って何かを感じること。

つまり、舞台技術は作り手の意図を受け手に伝えるための、想像をサポートする手段であるということです。この言葉を聞いて、私は次のように返しました。

「舞台技術の目的が鑑賞者の想像を支援するのであるならば、障害を感じている人たちへの鑑賞時の情報サービスは舞台技術の一部であると言える。なぜなら、字幕や音声ガイドといった鑑賞時の情報サービスは、障害のある人たちの想像を支援するためのサービスだからです」

ここで、字幕や音声ガイドなどの鑑賞時の情報サービスを舞台技術と定義しました。では、なぜ舞台技術者は鑑賞サービスに積極的ではないのでしょうか。堀内さんは以下のように課題を指摘してくれました。

  • あらゆる人に受け取ってもらう機会を用意(デザイン)するという意識が低い=障害や他のバリアへの関心が小さい
  • 関心を強く持っていても、どういったアプローチがあるのか、あるいは正しいのかわからない
  • 舞台作りはこういうものだというフォーマットの中に、鑑賞サポートのツールを配置する余地がない(スケジュール、スペース、予算)

この問題に対処するためには、プロデューサーや劇場の運営者と協力し、意識を高めて取り組む必要があります。

字幕や音声ガイドといった鑑賞時の情報サービスは、舞台技術の一環である。もし、このことが正しいのなら、これらのサービスは単に情報を提供するだけでなく、作り手が伝えたいことを受け手が感じ取るためのツールに進化していくべきである。

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