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開演中のアナウンス字幕

字幕サービスだけじゃない、すべての観客に対する鑑賞支援の新たな一歩

みなさんはご存知でしょうか。劇場公演において、開場中のアナウンスが流れる前に客席の照明が点滅することがあるのを。実は、これは聴覚に障害のある人たちに対して事前アナウンスや開演5分前に流れる「1ベル」をお知らせするための配慮なんです。

近年、劇場でも多様な観客を迎えるために字幕サービスを導入するところが増えてきています。字幕サービスは耳が聞こえない/聞こえにくい人たちの鑑賞を支援するサービスの一つですが、それだけでは十分ではありません。参加できる環境を整備するためには、さまざまなサービスを複合的に組み合わせる必要があるのです。

例えば、ポータブル字幕機を活用する場合、アナウンスの情報や1ベルの音を文字情報で表出します。しかし、開場中に利用者がずっとポータブル字幕機の画面を見ているわけではありません。友人や家族と手話でコミュニケーションをとったり、受付で配られたプログラムやチラシを読んだりすることもあります。そのようなときに、字幕で表示されている情報に気づかない(読まない)ことがあるのです。

もちろん、本編がはじまれば舞台と一緒にポータブル字幕機の画面も見てくれるので、それ以降の鑑賞には問題ありません。しかし、開場中はポータブル字幕機をそれほど意識していないかもしれません。

開場中のアナウンスには、「携帯電話の電源を切ってほしい」「写真撮影、録音、録画は禁止」「演出の都合で避難誘導等が消灯します」「災害が発生した場合の対応」など、すべての観客にとって非常に重要な情報が含まれています。当然ながら、これらの情報も字幕サービス利用者に届ける必要があります。そのために、アナウンスが流れる前に客席の照明を点滅させて、注意を促すのです。

しかし、字幕サービスを実施している劇場でも、このことを実施しているところはまだ少ないように思います。その理由の一つは、舞台技術チームとの連携が必要だということが考えられます。現在の日本の舞台技術のフォーマットには、「アナウンスを流す」ことは組み込まれていますが、それを耳が聞こえない/聞こえにくい人に届けるという考え方が浸透していないのが現状です。字幕などの観劇支援サービスは、まだまだ舞台技術や舞台制作の外にあるのが実情です。

先日、KAAT神奈川芸術劇場プロダクションオフィスの方とお話をする機会がありました。彼らは「字幕対象公演だけでなく、すべての公演で客席の照明点滅を実施したい」との考えを示してくれました。私は、その考えにとても共感しました。つまり、このことを舞台技術にフォーマット化するためには、対象公演だけでなく、アナウンスが流れる前に客席の照明が点滅することを一般的な行為として定着させることが大切なのです。これによって、当たり前のように受け入れられるようになるのです。

対象公演以外でもこの取り組みを導入していくことは、既存のお客様に対して劇場の取り組みを周知することにも繋がります。積極的にインクルーシブシアターを目指す取り組みを実践していても、それを発信しなければ他の劇場との違いや個性、価値を知っていただくことはできません。訪れるすべての観客や利用者に対して周知していくことが「ブランド=らしさ」をつくり上げることにつながります。コンセプトをホームページに記載するだけでは本当のブランディングにはなりません。劇場の実際の行動や姿勢が、そのコンセプトに結びついていることを示すことが重要です。

アナウンスや1ベルが流れる前に客席の照明を点滅させる。これも鑑賞支援サービスの一つです。

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