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ポータブル字幕席を記した座駅図

ポータブル字幕の座席位置について考える

さて、今日はポータブル字幕サービスを実施する際の座席位置についてお話ししたいと思います。

字幕がついている舞台公演は増えてきているように感じます。まだまだ作品や公演は限られていますが、10年前に比べると増加の傾向にあることは確かです。

この字幕付き公演の増加には、法改正やオリパラなどの社会的な要素が関係していますが、同様に重要な要素として、ポータブル端末に字幕を表示する技術の発展があげられます。以前は舞台中のスクリーンに字幕を投影したり、舞台袖にモニターを設置して映し出す方法が主流でしたが、これらの方法では、劇場や作品によっては字幕サービスを提供することが困難な場合があります。しかし、ポータブル端末に字幕を表示する技術が進歩したことで、字幕サービスを客席のみで完結することが可能になり、そのことによって字幕サービスの自由度が大幅に向上しました。

もしポータブル端末に字幕を表示する技術の発展がなかったら、字幕付き公演の普及はもっと遅れていたかもしれません。この点で、2010年にアップル社がタブレット型コンピューター「iPad」を発売したことは、非常に重要な出来事だったと言えます。スティーブン・ジョブス氏がiPadを開発していなかったら、タブレットは今のように普及していなかった可能性があります。本当に素晴らしい進歩をもたらしてくれたと思います。

ポータブル字幕を利用できる座席位置は、ほとんどが客席の最後列に設けられています。つまり、舞台から最も遠い座席に限られているということです。では、なぜ最後列に座席が配されるのでしょうか。その主な理由は、ポータブル端末の明かりが他のお客様にとってノイズとなる可能性があるためだと考えられます。以前は客席に存在しなかったポータブル端末の明かりは、他のお客様にとってノイズになる要素となると考えられ、最後列に座席を配置することで他のお客様の視界への影響を最小限に抑えることができるからです。もちろん、他の理由で最後列に座席が配置される場合もあるかもしれませんが、この理由だけを聞くと、既存のお客様や大多数の利用者を優先しているように感じられてしまうかもしれません。

劇場によっては、車いす席が中通路の左右や最後列の中央から選べる一方で、ポータブル字幕を利用できる座席位置は最後列の1箇所に限定されている場合もあります。もしかしたら、車いす席よりもポータブル字幕利用席の方が制約が多いのかもしれません。

実際にポータブル字幕を利用した方たちに座席位置について聞いてみると、「もっと前の席がよかった」とか「自分の好きな座席を選びたかった」という意見が出てきます。前の席を希望する理由は、単に「前の席=よい席」という単純な理由ではなく、字幕と役者の表情や口元を同時に見ることが、聴覚障害のある人にとってより豊かな情報を提供するためには重要だからです。また、座席から見える舞台の大きさとタブレットの大きさのバランスが悪かったり、客席の勾配による視線移動の問題を指摘してくれる利用者もいます。

これらの問題を解決するためには、今後どのような取り組みが考えられるでしょうか。一つの方法は、ポータブル端末の明かりが気になる方に対して、公演の星取り表で字幕付き対象公演を事前に確認いただき、それ以外の公演のチケットを購入いただくという方法です。すべての公演が字幕付きである場合には、ポータブル字幕を利用する方たちの座席位置を事前に開示し、その周辺を避けた座席位置を選んでもらうという方法もあります。これは、飛行機の座席選択時に乳児連れのお客様の座席を表示する「乳児マーク」の考え方に似ています。乳児連れのお客様の座席を制限するのではなく、乳児連れの座席位置を開示し、それを承知した上で他のお客様が座席を選ぶことができるという方法です。

もう一つの取り組みとしては、タブレットの明かりが漏れないようにする工夫が考えられます。例えば、タブレットにフィルムを貼ったり、シェードを取り付けたりする方法です。将来的には、特定の方向からしか画面の明かりが見えないような端末が開発されるかもしれませんし、メガネ型ディスプレイがより利便性の高いものとなる可能性もあります。

個人的には、明かり漏れの問題にばかり対策を講じるのでなく、ポータブル端末を利用して舞台を鑑賞することが当たり前となる社会を望んでいます。そうなることで、ポータブル字幕を利用できる座席位置の自由度も高まるでしょう。字幕付き公演へのアクセシビリティを向上させるために、さまざまな取り組みが行われることを期待しています。

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