新たな挑戦:有線接続で進化する字幕サービス
木ノ下歌舞伎「摂州合邦辻」KAAT公演の字幕デザインを担当させていただきました。今回の公演では、タブレットに字幕を表示します。タブレットを利用する利点には、以下のようなことがあげられます。
- 字幕が必要な方にのみサービスを届けることができる
- 無線で使用できるため、移動や設置の自由度が高く、効率的な字幕サービスが提供できる
- 特に「無線」は、安全性の観点からも重要な利点となる
現在の電波を利用した字幕サービスでは、テキスト程度の軽いデータであれば遅延や画質の問題はほとんどありません。アイコン用に写真画像を使う程度なら、全く問題なく動作します。しかし、今回、自分がデザインした字幕は、流れている歌や音楽を波形で表現したり、歌の部分をカラオケのように色変えで表示したり、セリフの掛け合い部分をテンポよくアニメーションで表示させたりしています。これらは、字幕を利用する方々により一層作品の臨場感を感じてもらうために取り入れたデザインです。
その結果、データ量が大きくなり、無線方式では遅延や画像のコマ落ちが発生してしまいました。テキストのみの字幕に戻すことは簡単ですが、今回は利用者に様々な効果を体験してもらうために、クオリティにこだわった字幕を提供したい。その結果、無線ではなく有線方式を選択しました。有線接続なので、遅延はほとんど感じられず、動画のコマ落ちもありません。無線方式と比べて、テクニカルチームとの電波干渉の可能性もなくなります。
ただし、重要な課題は、配線が来場者にとって邪魔にならないかどうかです。この課題にしっかり取り組む必要があります。しかし、この課題をクリアすれば、新たな可能性が広がると考え、演出部や劇場のテクニカルチームの理解と協力を得て、実施することにしました。
無線から有線への切り替えは、技術的には「後退」と感じられるかもしれません。しかし、私の視点では、今回の結果はむしろ「進化」だと考えています。新しいサービスを提供するために、無線が一般的だった字幕サービスを有線接続で提供することも、新たな挑戦です。